前解説(4:27〜4:29)
香苗 | (一礼して)「落語研究会」の時間です。東京・三宅坂、国立劇場からお送りします。 お相手いただきますのは、落語評論家の京須偕充(きょうす・ともみつ)さんです。よろしくお願いいたします。 |
京須 | よろしくお願いいたします。 |
香苗 | さて、本日お送りいたしますのは、古今亭志ん輔さんの「幾代餅」、なんですが、これはどういったお話なんでしょうか。 |
京須 | はい。これはね、「幾代餅」の由来ということを、最後に言いますが。 江戸の若者、とても初(うぶ)な若者が、ある、女性、ある女性といっても吉原の、 |
香苗 | はい。 |
京須 | 花魁、 |
香苗 | ええ。 |
京須 | に、恋をしましてね。ま、恋なんてもんじゃない恋患い…病気になるほど。 |
香苗 | えーーーー! |
京須 | ええ。 それで、でも念願適って、その、幾代太夫という、当時第一流の花魁さんと、親しく、一夜を過ごすことができたのですが、 |
香苗 | (微笑みながらうなずく) |
京須 | その純愛、いわゆる、お金で遊びに来る、一般のお客と違うこの主人公の初な、純粋なところに、 |
香苗 | うんうん。(うなずく) |
京須 | その幾代さんが、逆に惚れたと言いましょうか。 |
香苗 | うんうん。(うなずく) |
京須 | で、二人が結婚するという、ね。そういう…。 |
香苗 | ああー。すごい快挙ですねぇ、清造さんは。 |
京須 | はい。もう、シンデレラ・ボーイでしょうね、江戸の。はい。 |
香苗 | へえーっ。じゃ、これはラブ・ストーリーでなおかつそのラブ・ストーリーが、「幾代餅」。 どうしてそういうふうになったのかっていう、由来になっているということなんですねえ。 |
京須 | そういうことになりますね。 この二人で幾代餅という物を作るという、そういう話になってますから。 |
香苗 | へえー。 (うれしそうに)じゃ、これはハッピー・エンドなお話なんですねぇー。 |
京須 | はいはい、そうです。もう、素晴らしいハッピー・エンド。 |
香苗 | へえー。 ちなみにこれは、どんなところに注目して、聞いたらいいんでしょうか。 |
京須 | はい。この主人公のね、初なところ。そこが第一の聞きどころでしょうね。はい。 |
香苗 | へえー。 |
京須 | で、それと同時に、彼を取り巻く、周りの人たちの善意といいましょうか、みんなが温かく見守って、そういうハッピー・エンドに導かれるという。 |
香苗 | うん。 |
京須 | そこのところをどう演者がね、「えっ? そんなこと嘘だろう? ほんとにあったの?」って言われないように、でも面白く聞かせるかというところが、腕の見せどころ、ということになりましょうね。 |
香苗 | なるほど。わかりました。 それでは、古今亭志ん輔さんの「幾代餅」、ごゆっくり、お楽しみください。 |
後解説(5:08〜5:13)
香苗 | 古今亭志ん輔さんの、「幾代餅」、でした。 いやーやっぱり、ハッピー・エンドでほんとに(胸元に手をやり)幸せになるようなお話ですねぇー(笑) |
京須 | そうでしょ? あなただったら、どうします?(笑) |
香苗 | いやっ、私もーたぶん、そういうふうにあのー(胸元で両手を握り)幾代みたいに、結婚したいな!っていうふうに思いますけれどもねえー。 |
京須 | こういう、ね? |
香苗 | (うなずく) |
京須 | 生一本な、男性であれば、 |
香苗 | はぁい。 |
京須 | ね。 |
香苗 | いやっ、意外と女性はこういう男性、好きだと思いますよっ。 |
京須 | うーん、これはね、時代…に、関わらずそうでしょうね。 |
香苗 | うーん。 |
京須 | やはり、あの、自分をそこまで想ってくれるという、 |
香苗 | うん。 |
京須 | ねえ。それにほだされるんじゃないでしょうかね。 |
香苗 | それを打ち明けるところは、ほろっと来ますねぇー。 |
京須 | そうでしょうねー。 |
香苗 | あと、この話、悪い人が全く出てこないですねっ! |
京須 | はい、はい。いません。 |
香苗 | はい。 |
京須 | それはねえ、やはり、この郭というもの、いろんな議論があるけれども、ま、社会の裏面ではありますよ。 それを、表向きとても華やかにするのが芝居や落語の世界ですけれども、 |
香苗 | うん。 |
京須 | うーん…そういうところは、やはり美しくあってほしい。 |
香苗 | うーん。 |
京須 | 実態はそうでないかもしれないけれども、ね。 美しい人間の、真情が貫かれてほしいという、みんなの願望でしょうね。それがこの、 |
香苗 | そうですねー。 |
京須 | 話になり、そして、幾代餅というようなお店を作ったという、サクセス・ストーリーでもあります。 |
香苗 | (うなずいた後)うーん。 |
京須 | そこにまで結び付いていったという、それがまあ名作たる、ところだろうと思いますね。 |
香苗 | この「幾代餅」というふうな、題名なんですけれども、この「幾代」っていうのは何か由来っていうのがあるんですか? |
京須 | いえ。特にないのではないかと思います。 |
香苗 | うーん。 |
京須 | いかにもでも、遊女にありそうなね、名前でもありますし、同時に、お店を作った、それが、何代も続いたであろう幸せがという、それを連想させるような名前でね、 |
香苗 | うーん。 |
京須 | 幾つも、そして時代の代という、いい、名前だと思いますねえ。 |
香苗 | そうですねー。 そして、古今亭志ん輔さんですけれども、古今亭志ん輔さんならではの工夫っていうのは、どういうところに、ご覧になりましたか? |
京須 | えー、ありました。 |
香苗 | はい(笑) |
京須 | 主人公に言わせ、で(笑)、それとおんなじことを、お医者さんが言います。 |
香苗 | はい。 |
京須 | で、親方も、「ちょっと、俺の考えは違うかな」という、あの辺りに持ってった。 ああいう「ちまちました遊びは」っていうのはね、志ん輔さんの独創ですよ。 |
香苗 | あっ、そうなんですかぁ。 |
京須 | 恐らくね、恐らく。 で、二人の人物に繰り返させるという、笑いの要素を非常に強くしている。 |
香苗 | はい(笑) |
京須 | これは志ん輔さんらしい、工夫でしょうね。 |
香苗 | そうですよね。 (手振り付きで)こう何度も何度も出てきて(笑)、 |
京須 | はい。 |
香苗 | そこがこう、面白がりどころっていうような、 |
京須 | ええ。 |
香苗 | ところなんでしょうねえ。 |
京須 | 一本そこに笑いの、筋が通っているわけでね。 |
香苗 | へえー。 |
京須 | とてもいい工夫だと思いました。 |
香苗 | その古今亭志ん輔さんというのはどういった、落語家さんというかどんな方なんですか? |
京須 | うん。亡くなった志ん朝さんの愛弟子です。 志ん朝さんのいちばん最初の名前「朝太」という名前を、志ん輔さんも最初に、もらってるんですが、 |
香苗 | うん。 |
京須 | そのころ、それから志ん輔と名前を変えたあたりでね、お子さんの番組に出てるんですよ。 |
香苗 | あっ、そうなんですかぁ?(身を乗り出す) |
京須 | 「おかあさんといっしょ」って、 |
香苗 | あっ、はぁい。(大きくうなずく) |
京須 | NHKですね。 |
香苗 | ええ、ええ、ええ、ええ、ええ。 |
京須 | ですから、今の日本の若い方たちはね、小さいころにどっかで、この志ん輔師匠を、あるいは朝太さんの時代を、もちろん落語家としてではないけれども、見ている、おなじみの、小父さんと言ったら悪いかな?(笑) |
香苗 | (微笑を浮かべてうなずきながら)うふっ(笑) |
京須 | そういう人ですねえ。 |
香苗 | (手振り付きで)じゃあ、これを見たら逆にこう印象が変わったり、また新鮮だったりするかもしれませんね?(笑) |
京須 | そうかもしれませんね。 |
香苗 | (手振り付きで)ほんとはこちらが元々、 |
京須 | うーん。 |
香苗 | 本業なんですけれども。 |
京須 | 私そのころ子供じゃなかったから、そのね、イメージのあれが、わからないけれども、 |
香苗 | ええ、ええ、ええ。 |
京須 | きっとそうじゃないでしょうかねえ。 |
香苗 | そうですか。じゃ、今後の、古今亭志ん輔さんに期待することなど、ありましたら。 |
京須 | はい。志ん輔さんはとても、骨太な噺家です。で、志ん朝さんと同じようなリズムで喋られる。でも、語り口は違いますけれどもね。 そういうさっきの工夫のような、人間的なものを非常に強く打ち出す、積極的な芸風ですから、 |
香苗 | (微笑を浮かべてうなずきながら)うーん。 |
京須 | これからますます、ね、「灰汁が強い」なんて仮に言われても恐れずにね、志ん輔路線を貫いてほしいと思いますね。 |
香苗 | えー。でもほんとに、これはほんとに、素敵なお話だし、 |
京須 | はい。 |
香苗 | こう笑いどころもあるし、 |
京須 | ええ、そりゃそうですそうです。 |
香苗 | ほろっと来るしっていう、ほんとにこう、見ていて盛りだくさんっていういうような、 |
京須 | そうです。 |
香苗 | 感じがしますよねえー。 |
京須 | そうですよ。とってもね、落語のご馳走を食べたようなね、 |
香苗 | そうでしたね。 |
京須 | 気持ちがするでしょ? |
香苗 | はい。 京須さん、今日はほんとにありがとうございました。 |
京須 | こちらこそ、ありがとうございました。 |
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