落語研究会 H18.5.17放送分

 

前解説(4:27〜4:29)

香苗 (一礼して)「落語研究会」の時間です。東京・三宅坂、国立劇場からお送りします。
お相手いただきますのは、落語評論家の京須偕充(きょうす・ともみつ)さんです。よろしくお願いいたします。
京須 よろしくお願いいたします。
香苗 さて、本日お送りいたしますのは、古今亭志ん輔さんの「幾代餅」、なんですが、これはどういったお話なんでしょうか。
京須 はい。これはね、「幾代餅」の由来ということを、最後に言いますが。
江戸の若者、とても初(うぶ)な若者が、ある、女性、ある女性といっても吉原の、
香苗 はい。
京須 花魁、
香苗 ええ。
京須 に、恋をしましてね。ま、恋なんてもんじゃない恋患い…病気になるほど。
香苗 えーーーー!
京須 ええ。
それで、でも念願適って、その、幾代太夫という、当時第一流の花魁さんと、親しく、一夜を過ごすことができたのですが、
香苗 (微笑みながらうなずく)
京須 その純愛、いわゆる、お金で遊びに来る、一般のお客と違うこの主人公の初な、純粋なところに、
香苗 うんうん。(うなずく)
京須 その幾代さんが、逆に惚れたと言いましょうか。
香苗 うんうん。(うなずく)
京須 で、二人が結婚するという、ね。そういう…。
香苗 ああー。すごい快挙ですねぇ、清造さんは。
京須 はい。もう、シンデレラ・ボーイでしょうね、江戸の。はい。
香苗 へえーっ。じゃ、これはラブ・ストーリーでなおかつそのラブ・ストーリーが、「幾代餅」。
どうしてそういうふうになったのかっていう、由来になっているということなんですねえ。
京須 そういうことになりますね。
この二人で幾代餅という物を作るという、そういう話になってますから。
香苗 へえー。
(うれしそうに)じゃ、これはハッピー・エンドなお話なんですねぇー。
京須 はいはい、そうです。もう、素晴らしいハッピー・エンド。
香苗 へえー。
ちなみにこれは、どんなところに注目して、聞いたらいいんでしょうか。
京須 はい。この主人公のね、初なところ。そこが第一の聞きどころでしょうね。はい。
香苗 へえー。
京須 で、それと同時に、彼を取り巻く、周りの人たちの善意といいましょうか、みんなが温かく見守って、そういうハッピー・エンドに導かれるという。
香苗 うん。
京須 そこのところをどう演者がね、「えっ? そんなこと嘘だろう? ほんとにあったの?」って言われないように、でも面白く聞かせるかというところが、腕の見せどころ、ということになりましょうね。
香苗 なるほど。わかりました。
それでは、古今亭志ん輔さんの「幾代餅」、ごゆっくり、お楽しみください。

後解説(5:08〜5:13)

香苗 古今亭志ん輔さんの、「幾代餅」、でした。
いやーやっぱり、ハッピー・エンドでほんとに(胸元に手をやり)幸せになるようなお話ですねぇー(笑)
京須 そうでしょ? あなただったら、どうします?(笑)
香苗 いやっ、私もーたぶん、そういうふうにあのー(胸元で両手を握り)幾代みたいに、結婚したいな!っていうふうに思いますけれどもねえー。
京須 こういう、ね?
香苗 (うなずく)
京須 生一本な、男性であれば、
香苗 はぁい。
京須 ね。
香苗 いやっ、意外と女性はこういう男性、好きだと思いますよっ。
京須 うーん、これはね、時代…に、関わらずそうでしょうね。
香苗 うーん。
京須 やはり、あの、自分をそこまで想ってくれるという、
香苗 うん。
京須 ねえ。それにほだされるんじゃないでしょうかね。
香苗 それを打ち明けるところは、ほろっと来ますねぇー。
京須 そうでしょうねー。
香苗 あと、この話、悪い人が全く出てこないですねっ!
京須 はい、はい。いません。
香苗 はい。
京須 それはねえ、やはり、この郭というもの、いろんな議論があるけれども、ま、社会の裏面ではありますよ。
それを、表向きとても華やかにするのが芝居や落語の世界ですけれども、
香苗 うん。
京須 うーん…そういうところは、やはり美しくあってほしい。
香苗 うーん。
京須 実態はそうでないかもしれないけれども、ね。
美しい人間の、真情が貫かれてほしいという、みんなの願望でしょうね。それがこの、
香苗 そうですねー。
京須 話になり、そして、幾代餅というようなお店を作ったという、サクセス・ストーリーでもあります。
香苗 (うなずいた後)うーん。
京須 そこにまで結び付いていったという、それがまあ名作たる、ところだろうと思いますね。
香苗 この「幾代餅」というふうな、題名なんですけれども、この「幾代」っていうのは何か由来っていうのがあるんですか?
京須 いえ。特にないのではないかと思います。
香苗 うーん。
京須 いかにもでも、遊女にありそうなね、名前でもありますし、同時に、お店を作った、それが、何代も続いたであろう幸せがという、それを連想させるような名前でね、
香苗 うーん。
京須 幾つも、そして時代の代という、いい、名前だと思いますねえ。
香苗 そうですねー。
そして、古今亭志ん輔さんですけれども、古今亭志ん輔さんならではの工夫っていうのは、どういうところに、ご覧になりましたか?
京須

えー、ありました。
「そんなちまちました遊びが良くない」ということを、

香苗 はい(笑)
京須 主人公に言わせ、で(笑)、それとおんなじことを、お医者さんが言います。
香苗 はい。
京須 で、親方も、「ちょっと、俺の考えは違うかな」という、あの辺りに持ってった。
ああいう「ちまちました遊びは」っていうのはね、志ん輔さんの独創ですよ。
香苗 あっ、そうなんですかぁ。
京須 恐らくね、恐らく。
で、二人の人物に繰り返させるという、笑いの要素を非常に強くしている。
香苗 はい(笑)
京須 これは志ん輔さんらしい、工夫でしょうね。
香苗 そうですよね。
(手振り付きで)こう何度も何度も出てきて(笑)、
京須 はい。
香苗 そこがこう、面白がりどころっていうような、
京須 ええ。
香苗 ところなんでしょうねえ。
京須 一本そこに笑いの、筋が通っているわけでね。
香苗 へえー。
京須 とてもいい工夫だと思いました。
香苗 その古今亭志ん輔さんというのはどういった、落語家さんというかどんな方なんですか?
京須 うん。亡くなった志ん朝さんの愛弟子です。
志ん朝さんのいちばん最初の名前「朝太」という名前を、志ん輔さんも最初に、もらってるんですが、
香苗 うん。
京須 そのころ、それから志ん輔と名前を変えたあたりでね、お子さんの番組に出てるんですよ。
香苗 あっ、そうなんですかぁ?(身を乗り出す)
京須 「おかあさんといっしょ」って、
香苗 あっ、はぁい。(大きくうなずく)
京須 NHKですね。
香苗 ええ、ええ、ええ、ええ、ええ。
京須 ですから、今の日本の若い方たちはね、小さいころにどっかで、この志ん輔師匠を、あるいは朝太さんの時代を、もちろん落語家としてではないけれども、見ている、おなじみの、小父さんと言ったら悪いかな?(笑)
香苗 (微笑を浮かべてうなずきながら)うふっ(笑)
京須 そういう人ですねえ。
香苗 (手振り付きで)じゃあ、これを見たら逆にこう印象が変わったり、また新鮮だったりするかもしれませんね?(笑)
京須 そうかもしれませんね。
香苗 (手振り付きで)ほんとはこちらが元々、
京須 うーん。
香苗 本業なんですけれども。
京須 私そのころ子供じゃなかったから、そのね、イメージのあれが、わからないけれども、
香苗 ええ、ええ、ええ。
京須 きっとそうじゃないでしょうかねえ。
香苗 そうですか。じゃ、今後の、古今亭志ん輔さんに期待することなど、ありましたら。
京須 はい。志ん輔さんはとても、骨太な噺家です。で、志ん朝さんと同じようなリズムで喋られる。でも、語り口は違いますけれどもね。
そういうさっきの工夫のような、人間的なものを非常に強く打ち出す、積極的な芸風ですから、
香苗 (微笑を浮かべてうなずきながら)うーん。
京須 これからますます、ね、「灰汁が強い」なんて仮に言われても恐れずにね、志ん輔路線を貫いてほしいと思いますね。
香苗 えー。でもほんとに、これはほんとに、素敵なお話だし、
京須 はい。
香苗 こう笑いどころもあるし、
京須 ええ、そりゃそうですそうです。
香苗 ほろっと来るしっていう、ほんとにこう、見ていて盛りだくさんっていういうような、
京須 そうです。
香苗 感じがしますよねえー。
京須 そうですよ。とってもね、落語のご馳走を食べたようなね、
香苗 そうでしたね。
京須 気持ちがするでしょ?
香苗 はい。
京須さん、今日はほんとにありがとうございました。
京須 こちらこそ、ありがとうございました。

 

お品書き 文字起こし一覧